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【副業で本当に節税できるのか?】給与所得と事業所得の損益通算

松田篤史
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松田篤史
東京都国分寺市で開業している税理士。小さな会社と個人事業に特化した会計事務所を経営しています。 毎日の通勤電車が苦痛だったため都下で開業しました。マラソンが趣味なのでよく小金井公園を走っていますw
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赤字の事業と黒字の事業を行っている会社は、両者を合算して正味の黒字(又は赤字)額に基づき確定申告を行います。
では、会社ではなく個人で行っている場合はどうなるのでしょうか?

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会社(法人税法)と個人(所得税法)における違い

ひとつの会社が複数の事業を行っていることはよくあることですが、全ての事業で利益が出るとは限りません。
また、本業以外の収入(例えば株主として受け取る配当金や、所有する不動産を売却した場合の売却益)がある場合もあります。
その場合、法人税法上はこれらを区別せず、すべて合算した結果の正味の利益(又は損失)に税率を乗じて税額を計算します。

会社の場合

会社の場合、(法人税法上は)もうけに色を付けて区別はしないということですね。

一方、会社ではなく個人で複数の事業を行っていたり、配当金をもらったり、不動産を売却したりした場合は、所得税法に基づきこれらを区別して個別に利益(又は損失)を計算する必要があります。
では、その結果の利益(又は損失)を、会社の場合と同じようにまるっと合算して税金を計算できるかというと、そうはいかない場合があります。

個人の場合

所得税法では、「個人で獲得した所得については10種類に区分してから計算してね」と規定しています。

国税庁タックスアンサー 所得の種類と課税のしくみ

その上で、10種類のうち「A区分の赤字とB区分の黒字は合算OK」とか「C区分の赤字は他の区分の黒字と合算しちゃだめ」などと定めています。

国税庁タックスアンサーNo.2250 損益通算

例えば、赤字の小売業(事業所得)と黒字の不動産賃貸業(不動産所得)は損益通算できます。
事業で使っていた土地や建物などの不動産を売却した場合は譲渡所得として申告分離課税となり、たとえ売却損があったとしても、事業所得などと合算することはできません。
配当金をもらった場合は、総合課税(=事業所得などと合算して税金を計算)となりますが、上場株式等からもらった配当金については申告分離課税を選択することもできます。また、上場株式等からの配当金については申告不要制度を選択して源泉徴収で納税を完了させることもできます。
このように、会社と違って個人の場合は、取引を行った結果の利益や損失の取扱いについて、色々とルールがあるわけです。

給与所得と事業所得の損益通算

「その副業、ほんとうに事業所得なの?」

上記国税庁のサイト(タックスアンサーNo.2250)にあるように、事業所得が赤字であれば、損益通算にて他の所得の黒字から差し引くことができます。
「他の所得」には給与所得も含まれるので、例えば会社に勤めて給料をもらっている(=給与所得がある)ひとが、その他に事業を行っていて赤字となった場合、黒字の給与所得と赤字の事業所得を通算して正味の所得を圧縮できるわけです。
そうして確定申告することで、給与をもらう際に源泉徴収にて差し引かれた所得税が還付されることになり、また、翌年の住民税の額も減少します。

そう考えると、サラリーマンの傍ら副業でネット販売などをやっているひとは、「ネット販売の赤字を給与所得と損益通算すれば税金が安くなる!」と思いつきそうですね。あるいは、ネット販売をしているような外形を整えてあえて赤字にして損益通算すればよいのでは?ということを考えるひともいそうです。しかし、世の中そんなにうまい話ばかりではありません。
「あなたの副業は事業所得になるんですか?」という点に注意が必要です。

判例(事業所得ではなく雑所得ですよ、それ)

横浜地裁平成28年2月3日判決

事実の概要

原告は、・・・に所属して・・・週40時間従事しており、平成23年から平成25年までの間、・・・から年800万円を超える給与収入を得ている。なお、・・・原告に適用される兼業禁止規定はない。

原告は、・・・の趣味が高じて自ら・・・の販売をしようと考え、平成10年3月・・・、・・・から・・・に基づき、事業所の所在地を原告の自宅とし、・・・の製造事業及び販売事業の許可を受けた。

原告は、平成10年4月・・・、処分行政庁に対し、所得税の青色申告承認申請書を提出した。当該申請書の屋号欄には「・・・」と、業務を開始した日は同月1日と、それぞれ記載されていた。

原告は、当初・・・を輸入して販売しようとしたが、輸入の許可が下りなかったためこれを断念して、自ら・・・を製造することとし、工房で・・・の製造技術を学んでいるが、平成26年8月の時点では、・・・を製造する技術を有しておらず、・・・の販売を行ったことはない。

原告は、・・・に係る業務(本件・・・業務)を・・・作業場を設けて行っている。本件・・・業務による原告の収入は、平成23年は0円、平成24年は1万4000円、平成25年は3万5240円(いずれも、原告の作業状況を掲載しているブログの閲覧者から・・・の補修等の依頼を受けたものである。)にとどまる。

原告は、今は修行中で技術が未熟であるとして、本件各業務の宣伝広告を行っておらず、特定の取引先はなく、作業内容を自らが開設するブログを通じて依頼があれば受け付けている。

原告は、本件各業務を、作業時間を決めることなく、・・・に勤務していない日又は時間帯に行っている。・・・平成23年から平成25年までの間、本件製造等業務による収入はなく、本件・・・業務による収入は各年0円又は数万円程度しかないが、原告は、平成19年から平成25年までの間、所得税又は所得税等の確定申告において、本件各業務による必要経費が発生したとして、事業所得につき400万円台ないし500万円台の損失を計上している。

原告が、平成23年ないし平成25年までの間に、所得税又は所得税等の確定申告において計上した収入金額は、各年800万円を超える・・・給与収入のほかは、・・・本件・・・業務による収入額のみである。

裁判所の判断

(本件各業務に係る所得が事業所得と雑所得のいずれに該当するか)について
(1) 所得税法27条1項に規定する事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうものと解される(最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁参照)。

(2) 原告は、平成23年ないし平成25年において、本件製造等業務による収入を得ておらず、本件・・・業務による上記各年の収入も、順に0円、1万4000円、3万5240円にとどまっている一方、原告は、上記各年はもちろん、遅くとも平成19年以降は、本件各業務による必要経費が生じたとして、毎年、確定申告において事業所得につき400万円以上の損失を計上している状況にある・・・。
しかも、原告は、本件製造等業務については、・・・の製造技術を学んではいるが、平成26年8月時点ですら未だ・・・を製造する技術を有しておらず、現実に・・・の製造及び販売を行ったことがないというのであり、また、本件・・・業務についても、今は修行中で技術が未熟であるとして宣伝広告を行っておらず、特定の取引先はなく、作業内容を掲載する自らが開設するブログを通じて依頼があれば受け付けているにとどまり、その収入額も上記のように極めて少額にとどまっている・・・。このような事情に照らせば、本件各業務は、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有するものとは到底認められないというべきである。

しかも、原告は、平成23年から平成25年までの間、(中略)年800万円以上という相当額の安定した収入を得ており、当該収入が原告が確定申告に計上した収入金額のほとんどを占め、本件各業務は、・・・の仕事のないときに行っているものにすぎないのであってこれらの事情に照らせば、本件各業務は、事業としての社会的地位が客観的に認められるものであるということもできない。

(3) 以上によれば、本件各業務に係る所得が、所得税法27条1項に規定する事業所得に当たるということはできない。そして、本件各業務に係る所得は、利子所得、配当所得、不動産所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことは明らかであるから、雑所得に該当すると認められる(所得税法35条1項)

※「原告」とは納税者を指します。
※「・・・」は引用者が中略した部分です。

判例の要約など

判決文は慣れないと読みにくい部分もありますので、内容を以下に要約します。

・サラリーマンとして年収800万円の収入があるひとが、自らの趣味に関するグッズの製造販売を副業で始めた。
・その事業を行うために必要な許認可も得た。
・税務署に青色申告承認申請書も提出した。
・グッズそのものの製造販売事業の売上実績は0。
・付随業務で最大年3万円程の売上あり。
・経費は年400万円以上計上している
・裁判所は「その副業は事業所得ではなく雑所得に該当する」と判断した

この納税者はサラリーマンとして年収800万円以上を得ている一方で、趣味に関するグッズの製造販売業を副業として行い、そちらは400万円以上赤字の事業所得として確定申告をしていました。
給与所得と事業所得は損益通算ができるため、結果的に事業所得の赤字を使って給与所得を圧縮し、給与所得で源泉徴収された所得税の還付を受けていました。
ところが、税務調査でこの副業は事業所得ではなく雑所得であるとされました。雑所得は他の所得と損益通算ができないため、所得と税額の再計算の結果約146万円の所得税とそれに基づき計算された過少申告加算税を納めることになった事例です。

事業所得については、過去の最高裁判決で「事業所得とは自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性・有償性を有し、かつ、反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう」と述べられています。
今回のケースでは、

肝心のグッズを製造する技術をまだ習得できていない
宣伝広告をしておらず特定の取引先もない
この副業からの収入がほとんどない一方で400万円以上の経費を計上
→自己の計算と危険において独立して営まれていないし、営利性・有償性もない

年収800万円の給料で生計を維持している
会社員として週40時間以上働いており、副業に当てている時間は残りの余った時間
→社会的地位が客観的に認められる業務ではない

と判断され、事業所得ではないとされました。

まとめ

最近の報道で、国がつくるモデル就業規則の副業禁止規定が改定される、というものがありました。

また、大手企業のなかにはすでに副業を認めているところもあります。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1710/12/news059.html

労働人口の減少をふまえ政府が働き方改革を推進するなど、今後「会社員として一生働く」というこれまでのスタイルが多様化してくるのは間違いないでしょう。
その際、いきなり起業するのではなく、会社勤めをしながらまずは副業として事業を始めるひとも増えてくると思われます。

好きなこと・やりたいことがあって、それを副業という形でスタートし、いずれはそれで生活できるようになる・・・夢がある話ですし、そういうひとが増えれば世の中はより良くなると思っています。私自身もそういったひとたちを税理士として支援したいと願っています。

しかし、そうして始めた副業が赤字の場合に「事業所得」として申告し給与所得と損益通算することには慎重な判断が必要です。
紹介した判例のように、事業に必要な許認可を得て青色申告承認申請書を提出していたとしても、最終的には形式ではなく実質で判断されます。
事例のように副業の売上がほとんどなく、誰が見てもその事業で生活している状態とはいえない場合は、事業所得ではなく雑所得となるでしょう。

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